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戦後文学探検隊2 「桜島」 梅崎春生

戦後文学探検隊

f:id:apocalypsenow:20170129003454j:plain軍隊のような高校を卒業し、威圧ばかりする教師ともこれでおさらばと思っていたら、大学のサークルでは、歳がひとつやふたつ上な程度で、上から目線でくだらない説教をかましてくるような、なかなか厄介な「センパイ」といういきものがいた。俺はもちろん、思いっきり反発した。

今、俺はあのときの「センパイ」たちの年齢を、とっくに越えている。

だんだん、彼らを許せるようになってきた。

人間というのは、単に、威張りたい、権力を誇示したい、王さまになりたい、周囲の人間を従わせたい、だけで、他人を上から押さえつけようとするのではないことが、わかってきた。
「センパイ」たちはむしろ、怯えていたのではないかと思う。
向き合わざるをえない現実、例えば、日本という低迷の国の将来であったり、自分自身の限界であったり、そういったことに、誰もが怯える。
その怯えから解放されるための方法のひとつが、自分より<下>の人間しかいないような、自分の王国をつくることなのだと思う。

俺は、「センパイ」たちが王国を作ろうとしたとき、反旗を翻したまつろわぬ民であり、「センパイ」たちを怯えから解放することに協力しなかった存在なのだと思うと、ウザいことをしてしまったなと、今になって反省している。





戦後文学探検隊第2回、
梅崎春生桜島」(青空文庫)を読んだ。


最初に言っとく

めちゃくちゃ面白い。
もっと早く読んでいればよかった。

戦後文学ってこれかぁ~って、感じ。




最初のほうの、主人公の村上兵曹が右耳の無い女と一夜を共にする場面の、スリリングなやり取りからもう引き込まれる。
舞台は終戦間近の鹿児島県。米軍が上陸してくる可能性が高い。登場人物全員が、死を意識していて、だからこそ、強烈な愛や憎しみを、というか、「自分」というものを、他人にたいしてぶちまけている。
その悲しさ、むなしさ。


物語をとおして、村上兵曹に挑戦してくる、「変質者の瞳」を持った、吉良兵曹長という不気味な男が出てくる。
この人物は、典型的な軍人に見えて、実はそうではない。軍隊というものを信じていて、依存していて、しかし、どこかで反発しているような、混乱した人物。彼の存在がこの物語に深みを与えている。

物語に登場する、純粋に日本の勝利を信じる少年兵や、絶望的な状況の前に達観している見張りの男といった単純な人物とは対照的に、村上とこの吉良兵曹長は複雑な人物であり、村上と吉良同士も、対照的な性格をしている。

軍隊にどこか嫌気がさしている村上、それでも軍隊で生き甲斐を見いだしてきた吉良。

米軍の大船団が近づいている。
その緊迫した状況で、交差し、また衝突する2つの個性が、終戦を迎えたとき、どのような反応をするのか。それがこの物語のクライマックス。


まぁ、彼ら二人を中心に物語が進むんだけど、見張りの男と主人公の会話も、なかなかいい味をだしている。

「つくつく法師は、嫌な蝉ですね」
という男の言葉が、その後の展開の伏線になっていたり、

「私は海軍に入って初めて、情緒というものを持たない人間を見つけて、ほんとに驚きましたよ。」からつづく、軍隊の性質を語る深い台詞も、そのあとの会話も、うわぁーわかるわぁーという感じで面白い。

中盤の
「人間には、生きようという意志と一緒に、滅亡に赴こうとする意志があるような気がするんですよ。」からの台詞は、この人物のかかえる生き方が伺える。

彼との会話を通じて、彼のように達観することのできない村上の複雑さが浮かび上がるし、後半の、士官たちがビールをのみながら騒がしく、ヤケクソの宴会をするシーンを際立たせる。

俺はこの見張りの男にもっとも感情移入ができた。自分なら、目の前に、迫ってくる、巨大な死があるとしたら、見張りの男のように、物事のすべてを理解したように、淡々としているだろうなという気がする。

見張りの男の最後の結末は、ちょっとかわいそうなんだけどね。